自己破産をするタイミングは離婚前? 離婚後? 離婚相手への影響や慰謝料はどうなる?

自己破産すると財産を全て失い、住むところにも困るのでは?というイメージを持っていませんか?
自己破産の目的は、お金を借りた人(債務者)が経済的に再起できるようにすること、債務者の財産を売って現金化し、お金を貸した人(債務者)に公平に分配することであり、借金返済で生活がままならない人を救済するための手続きです。
自己破産後も給与や年金は以前と同様に受け取ることができます。選挙権や被選挙権に影響はなく、住民票や戸籍に載ることもありません。会社に知られることもなく、知られたとしても自己破産の事実だけでの解雇はできません。

既婚者である場合、自己破産によって家族へ悪影響が及ばないか不安になることでしょう。これから詳しく説明していきます。

自己破産をするタイミングは離婚前?離婚後?

自己破産するから家族に迷惑をかけないよう、離婚を…と考えるのは早計です。離婚は自己破産する夫(妻)以外の家族の財産は、保証人になっていない限り、基本守られます。また、破産する人の配偶者が例え保証人になっていたとしても、離婚したからといって返済義務はなくなりません。離婚しても意味はありません。
夫婦関係がうまくいっていないといった理由で離婚もやむなし、という状況であれば、離婚のタイミングは重要です。

離婚前、離婚後によって配偶者への影響が変わる場合がある

自己破産と離婚のタイミングで影響が出るのは、慰謝料と財産分与です。結論から言うと、自己破産してから離婚した方が無難です。
別居中の婚姻費用や未成年の子の養育費は、自己破産しても支払い義務は残ります(非免責債権)。離婚のタイミングは関係ありません。

自己破産前に離婚をした方が無難な理由

基本的に自己破産前の離婚はおすすめできません。離婚の際の財産分与が財産隠しを疑われる可能性があるからです。
しかし緊急を要する場合、例えば配偶者から暴力を受けている、債権者からひどい取り立てを受けているようなケースでは先に離婚することをおすすめします。
弁護士に相談して離婚の手続きを進めましょう。財産分与で財産隠しを疑われないよう、財産の動きを裁判所に説明できる資料を準備すると良いでしょう。

自己破産後に離婚をした方が無難な理由

自己破産も離婚も予定しているのであれば、離婚前に自己破産した方が無難です。
自己破産前に離婚をすると、相場より多く慰謝料・財産分与が行われていないかを調査するため、管財事件として取り扱われる可能性があります。

管財事件は自己破産の手続きの一つで、裁判所が決定する同時廃止事件・少額管財事件・管財事件のいずれかの手続きで進められます。
同時廃止事件が申し立てから約3~4ヶ月程度かかり、費用(申立手数料、予納金、予納郵券代)2万円程度です。少額管財事件が約4~6ヶ月、予納金20万円程度、管財事件が約6ヶ月~1年、予納金も予納金50万円以上かかり、弁護士に依頼した場合は別途、弁護士費用がかかります。
なお、少額管財事件は弁護士に依頼していることが条件なので、本人が申し立てした場合は少額管財事件にはなりません。

離婚時の慰謝料や財産分与で財産隠しを疑われると、最も時間と費用がかかる管財事件として扱われる可能性が高くなります。
そのリスクを避けるためにも自己破産してから離婚した方が良いのです。

自己破産前に離婚をした場合の影響は?

自己破産前に離婚をした場合の財産、配偶者が保証人だった場合、婚姻費用、慰謝料はどうなるのか、詳しく見ていきましょう。

自己破産による財産(持ち家・車など)について

破産者名義の持ち家は処分の対象になります。賃貸住宅に住んでいる場合は、そのまま住むことができます。しかし家賃滞納も破産手続きに含めた場合、滞納分は免責になるので、そのかわり退去せざるを得ません。
自己破産後も新しく賃貸住宅を借りることができます。ただし、5~10年は信用情報期間に破産した情報が登録されているため、クレジットカード決済や信販系の家賃保証会社を利用する場合、審査が通らない可能性があります。

自己破産は単に借金を免除するだけでなく、返済にまわせるものは全て回した上で、残りの支払いを免除するという手続きであり、故意に財産を隠して申告すると適切な配当ができなくなります。
財産を隠したとみなされるのは、不動産や自動車の名義を変更する、離婚の財産分与を利用し、配偶者に財産を移転する、申告口座以外の口座に現金を移す、株式や投資信託で得た利益を申告しない、などの行為です。
意図的に隠す行為は詐欺破産罪になる可能性があり、借金の支払い義務が免除されなくなります。仮に隠し通し、免責許可が決定したとしても、後で発覚すれば免責取り消しになります。単なる申告漏れだった場合でも免責不許可事由になるリスクがあるため、十分に注意しましょう。

離婚時、適正な財産分与であれば問題にはなりません。婚姻中に夫婦共同で築いた財産を分けるのは当然の権利だからです。
ただし、不当に過大な財産分与がなされたと認定されると、財産分与した後でも破産管財人によって「否認権」が行使され、返還する必要が出てきます。

配偶者が保証人だった場合について

離婚しても保証人としての支払い義務は残ります。
通常であれば、借りた側である債務者は、決まった返済日までに返せばよいという「期限の利益」が存在します。破産手続開始の決定を受けた時点で「期限の利益」を喪失し、貸した側である債権者がすぐに一括で返して!と言えるようになるのです(民法第137条)。
分割払いができるかどうかは、債権者に交渉する手もありますが、相手の判断次第です。支払いが困難であれば、保証人である配偶者も自己破産を検討する必要があります。

婚姻費用(生活費)について

婚姻費用とは夫婦が通常の社会生活を維持するために必要な生活費、居住費、食費などの費用をいい、別居中は収入が多い方の配偶者が、収入の少ない方の配偶者に対して支払う義務があるものです。離婚すれば、支払義務は消滅します。

問題となるのは、破産手続きの開始がなされた時点で、未払いの婚姻費用がある場合です。

婚姻費用の権利者(受け取る配偶者)を債権者として申告しなければなりません。破産手続開始申立ての時は債権者全員を記載した債権者一覧表を提出します。一部の債権者のみ除外したり、嘘の記載をしたりする行為は債権者隠匿となります。
また、手続き中は支払ってはいけません。すでに借金の返済ができない状態なのに、特定の債権者だけに支払いを行う(偏頗返済)のは、債権者にとって不公平だからです。これらの行為をすると自己破産は認められなくなるので、借金は全て申告しましょう。
もともと支払う予定だった日がきた場合は手続き中であっても支払うことは問題ありません。破産手続が終了したら、支払いを再開できます。

慰謝料について

相手が不倫などの不貞行為やDVをしており有責である場合、慰謝料の請求ができます。
不当に過大でなければ、受け取った慰謝料は、離婚後に相手の配偶者が自己破産して管財事件になったとしても返還する必要はありません。

自己破産後に離婚した場合の影響は?

自己破産後に離婚した場合は、慰謝料や財産分与の取り扱いが変わってきます。婚姻費用や養育費の支払義務は免責されずに残ります(非免責債権)。

元配偶者が保証人だった場合について

保証人とは債務者が払えない時に代わりに支払う人であり、自己破産した場合、保証人である元配偶者に一括請求がきます。分割払いに応じてもらえるかは借入先次第です。
自己破産より先に離婚しても、後に離婚しても、支払義務があることには変わりはありません。保証人である元配偶者が支払えなければ、自己破産を検討する必要があります。

慰謝料や財産分与について

破産手続きに入った場合、離婚慰謝料や財産分与は他の債権と同じになり、配当があれば受け取ることができますが、配当する財産がなければ免責されるため、受け取ることができません。
自己破産後に離婚すると通常支払われる不貞の慰謝料は免責、つまり相手に支払う義務はなくなり、請求することもできなくなります。長期間別居しており、完全に夫婦関係が破綻した状態で自己破産をした場合、自己破産をした理由が主に破産者にあったとしても、請求自体が認められない可能性があります。

免責されないのは「悪意で加えた不法行為」「故意、重過失によって生命、身体に加えた不法行為」にもとづく損害賠償請求権に当てはまるケースです。DVなどが該当します。
ただし、自己破産と不貞の事実を知ったタイミングにも左右されます。自己破産する前に不貞の事実が発覚した場合、免責されて慰謝料請求はできませんが、逆に自己破産後に発覚した場合は請求できる可能性があります。

自己破産の手続き中は、破産債権の全部について免責にするかどうかだけ判断するため、個別のケースについては破産手続きが終わった後で、改めて民事裁判を起こし、白黒つけてもらうことになります。

子供への養育費について

養育費は子供が生きるために必要な生活費であり、極めて重要な費用です。よって免責されないので、自己破産しても支払わなければなりません。
婚姻費用同様、滞納分があれば、破産手続き開始決定後に債権者として申告し、手続き終了後は支払いを再開できます。手続き中にもともと支払う予定だった日がきた場合は、支払っても問題ありません。
養育費を支払うのが経済的に厳しいからといってそのまま放置すると、財産を差し押さえられるおそれがあります。相手に養育費の減額を交渉し、交渉ができない場合は弁護士に相談しましょう。
相手方の合意を得られなかったら、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てます。自己破産そのものが減額理由として考慮してもらえませんが、収入や家族構成に変動があった場合は、減額してもらえる可能性があります。

自己破産は離婚理由にはならない?

双方が納得した協議離婚または離婚調停であれば、離婚する理由は問題になりません。しかし、夫婦のどちらかが拒否しているケースだと、自己破産をしたというだけでは離婚できないのです。

配偶者の自己破産だけが理由は難しい

一方的に離婚できる要因かどうかは民法770条での「婚姻の継続が困難な事由があるとき」に該当するかどうかですが、自己破産は該当しない(離婚できない)とするのが一般的です。
ただし、過度なギャンブル癖や浪費癖があり、生活費を入れないといった扶助義務違反があると婚姻が継続できない事由として認められ、離婚できます。

その他に影響があること

財産が差し押さえられる

破産者本人名義のもののうち、価値が20万円以下の家や土地・ブランド品のほか、タンスや食器棚・調理器具・暖房器具・寝具といった生活必需品と99万円以下の現金、生活に必要な洗濯機・電子レンジ・電気ケトル・29インチ以下のテレビなどの生活に必要な家電以外は、差し押さえとなり、換価処分されます。

車は自動車ローンの支払いが終わっている場合と、支払いが残っている場合とでは処分の条件が異なります。自動車ローンの支払いが残っていない場合、車の時価が20万円以上であれば、原則として自動車は処分されます。自動車ローンが残っている場合には、ローン会社との契約によりローン完済までの間は、所有権がローン会社に留保されていることが通常であり、車の時価に関わらず、ローン会社に車を引き揚げられてしまうのが原則です。

結婚後に購入した不動産や車は夫婦の共有財産になるのが原則(民法762条2項)です。しかし破産法上、不動産については登記、車については登録をしなければ所有権(共有持分権)を破産管財人に主張できず、破産者の単独名義になっているものは換価されます。
差し押さえされないように家族や知人の名義に変更すると、財産隠しとして自己破産自体の許可が下りず、違法行為として罪に問われる可能性もあるので絶対にやめましょう。

自己破産手続き中は一定の制限を受ける

自己破産手続き中は、引越しや旅行をする際に裁判所の許可が必要になります。
破産者は破産管財人に対し、所有する財産の内容について、いつでも説明できる状態でなくてはならず、裁判所や破産管財人は、破産人の財産調査や管理を行うために居所を常に把握しておくことが必要となるためです。

通信の秘密が制限されるため、破産者宛の郵便物は破産管財人に全て転送され、内容を確認されます。破産者がわざと債権者を除外していたり、財産を隠していたりする事態を防ぎ、債権者や財産の申告漏れがないか調べるためです。あくまで制限を受けるのは破産者のみで、同居する親族宛の郵便物は制限されません。また、宅急便は対象外です。破産管財人により開封・確認された郵便物は手続き中に返却を受けることができます。

手続き中は一定の職業につくことや資格が停止されます。証券会社外務員・旅行業者・商品取引所会員・宅建業者・建設業者・生命保険募集人・警備業者・風俗営業・弁護士・司法書士・公認会計士・税理士などです。資格をはく奪されるわけはなく、手続きが終われば仕事を再開することができます。

別居中であっても資料の受け渡しは必要である

管轄する裁判所によっては配偶者の収入などを裁判所に伝える必要があり、離婚する相手と顔を合わせたくなくても、何度かやりとりをしなければならない可能性があります。配偶者に借金していない場合、破産の申し立てのみ依頼していた弁護士は基本関知しないので、破産者自らやりとりをしなければなりません。
必要な資料としては、住民票・源泉徴収票・給与明細・預貯金通帳のコピーなどが挙げられます。

相手名義のクレジットカードの場合

クレジットカードは破産者名のものは使えなくなり、家族カードも使えなくなります。破産者の配偶者名義のカードは影響を受けないので使えます。
これは法令で決まっているのではなく、各カード会社の社内基準などの独自判断にもとづくため、ケースバイケースになることが多いです。

子供には影響があるのか?

基本、子に影響が出ることはないといわれています。

親の自己破産が子に影響を及ぼすことはない

以下の場合は影響を受けます。

・親の持ち家で同居しているならば引越し
自己破産したのが親で、持ち家で同居している場合はその家は処分対象となります。破産手続中は住むことができるので、その間に引越し先を探さなければなりません。

・親の借金の連帯保証人であれば一括返済しなければならない
成人している子が親の借金の連帯保証人の場合、親の自己破産によって保証人である子に一括請求されます。分割にしてもらえるかどうかは借入先次第です。支払いが困難であれば子も自己破産等の債務整理を行わなければなりません。

・クレジットカードが使えなくなる
破産した親名義のクレジットカードが使えなくなり、家族カードも使えなくなります。18歳以上であれば、本人名義のクレジットカードは作成可能です。

・学資保険等は解約
子のために支払っていた学資保険は、解約した時に戻ってくる解約返戻金の額で取り扱いが変わってきます。東京地方裁判所の場合、解約返戻金が20万円以上であれば財産とみなされるため、解約しなければなりません。
どうしても保険を継続したいと希望するのであれば、裁判所に必要性を説明し、解約返戻金と同じ額を破産管財人(裁判所が選んだ、破産者の財産などを調査する人)に支払うことで継続できる可能性があります。
注意したいのは、契約者・保険料の支払い者ともに破産者本人で、他の人に名義変更すると財産隠しだと疑われる恐れがあります。他にも生命保険やがん保険といった、積立型の保険も同じです。

・奨学金の保証人であれば変わってもらう
子の奨学金の保証人である親が自己破産した場合、保証人を変わってもらう必要があります。自己破産する=お金を返す資力がないということになり、債権者は変わりの保証人を立てるよう求めることができます。

・自己破産前に子に財産を譲ってはいけない
破産した親の財産は換価処分されますが、子の固有財産は対象外です。しかし、自己破産直前に親から子へ財産を譲る行為は財産隠しとみなされ、借金の免責が認められないだけでなく、最悪、詐欺破産罪に問われることになります。

 

まとめ

自己破産をするメリットをまとめると、返済義務が免除され、請求・督促がなくなります。弁護士や司法書士に依頼すると債権者に受任通知が郵送され、債権者に受任通知が届いた時点以降、債務者に直接連絡や請求することは金融庁のガイドラインにて禁じられているからです。また、財産全てを失うわけではないことと、誰でも申し立てることができるのもメリットです。無職の人や生活保護を受けている人も可能です。

実際は申し立てよりも事前の必要書類が複雑なため、弁護士に依頼するのが現実的です。司法書士にも依頼は可能ですが、債権者の窓口にはなれず、書類の準備までで破産の申立や裁判所に出頭はできないため、本人が行わなければなりません。行政書士へは書類のみ依頼できます。
破産者本人が必要書類の準備から申立てまで行っても良いのですが、誤字脱字があるだけでも不備とみなされ、免責が許可されないケースもあり得ます。管財事件になった場合は少額管財になりません。受任通知がないために免責の許可が出るまで取り立てや返済は続くデメリットをかんがみると、費用がかかっても弁護士に依頼するメリットの方が大きいです。

自己破産をするデメリットとしては、いわゆるブラックリストに載るため、5~10年はローンを組んだりクレジットカードを作ったりすることができません。携帯電話を分割払いで購入するのが難しくなります。携帯電話本体の分割代金が完済されていて、通話料金の滞納がなければ、以前同様に使用できます。もしくは安価な携帯電話を一括払いで購入すれば使用可能です。
原則、20万円以上の財産や99万円以上の現金は処分されます。自己破産手続き中は警備員など一部の職業に就くことができなくなり、弁護士などの資格の停止を受けます。自己破産すると、代わりに保証人に一括請求されるため、保証人に伝えて相談した方がよいでしょう。

手続きの際、弁護士や司法書士に依頼すると費用は約30~60万円です。分割払いにしてもらえるでしょうが、高額であることには変わりありません。
自己破産者の住所・氏名などが官報(国が発行する新聞のようなもの)に載ります。しかし、一般の人が見ることはないでしょう。

安易な自己破産はおすすめしませんが、借金の返済の見込みがなく、借入先が複数あり、20万円以上の資産がない場合は検討すべき解決手段であると言えます。

さいごに

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